ショートストーリー  ~コウノトリと赤ちゃん~

 
 今日の1日豆知識メモ:江戸時代、捨て子は町ぐるみで育ててたんだとさ。

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「ねぇ、赤ちゃんってどこからくるの?」
 小学五年生くらいの頃、おれは疑問に思ってきいたことがある。
 そのときは確か学校の宿題で出たんだけど当時のおれは授業中話を聞いてなくて、友達のマイケルーカスに尋ねたら、「商店街の肉屋さんが知ってるよ!」って言われたから、素直に肉屋さんに聞きにいったらなんか苦笑いではぐらかされて・・・・。
 それから色々近場の人たちに尋ねたけどどれもろくな解答じゃなくて・・・そうしてたらいまわしにされてるうちに日が暮れて、結局帰ってきた父親の肩をもみながら聞いたんだ。
「ねぇ、父ちゃん。赤ちゃんってさどこからくるの?」
「ん、ポスト」
 ポスト。はがきとかを入れるアレ。その発言は衝撃で今でもまだ覚えている。
「え、あんなところに赤ちゃん入るの?」
「ああ、ちょっとでけえ専用のポストがあってな、そこに赤ちゃんがわいてくるんだ」
 今となってはクソみたいな言い方だとは思うが、昔のおれはもう父さんの言うことは絶対って感じだったから信用しまくっていた。
「ええすっげー、命のオアシスじゃん!」
 あのときは感動して、数ヶ月の間、一度その場所をこの目で見てみたいと胸を弾ませていたなぁ・・・・ 

 ・・・・・・

 ・・・

 そうして5年が経ち・・・、
「父さんな、元々な、母さんとはな都合のいい関係でいいかなーって思ってたんだよ」 
 おれは2つ下の妹の玲美と聞きたくもない親父の身の上話をリビングで聞かされていた。なんかよくわからんが、親父は酒で酔ってはっちゃけていつものが出ていた。逃げようと部屋を戻ろうとしたときには目をつけられてて・・・・・・はぁ、もうまじ面倒くさい絡み酒。
「もうお前らの歳だからわかるだろうけどな、肉体関係ってやつ。昼ドラでよくあるあれだよ」
「お、おう」
 まじでこういうのためらいなく言ってくるから返答にこまる。玲美は一応耳は傾けているけれど、面倒なのに関わりたくないので、テレビに視線をむけている。
「んでな母さんの家でヤるってことでな、まあそのときはラブホがよかったんだけど、まあいいかって思いながら、行ったんだけどな、なんかちょっと違和感があったんだよな。ハメられてるみたいな? まあそのあとはハメたんだけどさ」
「・・・まじでクソオヤジしねよ」
 玲美、黒飴を顔面めがけてシュート。親父、350m酒缶でブロック。
「それでよ~、あ、いつもゴムは徹底してたのね。ちゃんと自分で持ってきて、徹底。んで不備がないかチェック。で、その日母さんの家でセックスしたときもちゃんと用意はしてた」
 玲美が怒りでテレビの音量をMAXボリュームに。バラエティのブスボイスがいつもの3倍増しで耳を犯してくる。
(あああああ!!! 耳がいかれるーーーーーーーー)
 それに負けじと、親父も大声を張り上げる。
「(120デシベル)んでよお! まあ普通にいいやーって思って、ヤッちゃったわけなんだけどー! しばらく連絡がこなくて! どうしたのかなーと思ったら! 1週間くらい経ってからメールきて! 交渉成立って、書いてあって! あれ、俺なんかしたっけ? って思ってよく見たら、着床成立って書いてあったんだよ! まじであいつにしてやられたね!」
 テレビの音と親父の声で話どころじゃねえ! 
 騒いでると、ちょうどテレビ横の扉が開き母親が帰ってきた。手にはスーパーの袋を提げている。
「(テレビを線を引っこ抜き)あらあらどうしたの。何かあれてるじゃない。どうしたのどうしたの!」
 ボケ老人のように同じことを何度も繰り返す。
「ああ、もう、あの酔っぱらいがうるさくてもうテレビ見れたもんじゃないんだけど」
 猛禽類のようなどぎつい睨みを効かせながら、中指で指差す。親父は臆すことなく、というかこっちの領域にまで侵犯してくる。
「ちょっとお父さん。静かにして」
「いやいや・・・、あれだよ。昔の話をしてたんだよ。お前が俺をハメたときの」
「あらやだ。そういえば最近ご無沙汰ね。たまにはどうかしら? 最近可愛らしい下着を買ったのだけど」
 聞かされるこっちがやだわ。
「てかさ、その親父の話ってまじなの? どうせ宴会用のネタでしょ」
 妹が口を挟む。母さんが間髪入れずに答える。
「その話って? もしかしてあれ話したの? 昔ね、あまりにもお父さん奥手だったから、あたしの実家でエッチするときにゴムに穴空けて仕込んどいたのよ。それが功を奏したのかあなたたちが産まれたのよ」
 兄弟共々、あっけらかんとする他ない。
「・・・・・・てかそれ初耳なんだけど。 兄貴知ってた?」
「いや、初耳だ。けど・・・・まあ以前から酔う都度、オヤジの碌でもない昔の女癖の悪さを聞くに、ろくでもない生まれ方してねえんだろうなと想像はしてたけどさ・・・・」
 おれはもう慣れっこだし今更何言われようと耐えられるが、玲美にはそうもいかなかったようで、いつになく気落ちしていた。体をダンゴムシみたいに縮こまらせて、膝頭の上に顔を乗せている。普段は強気かもしれないけど、こういう自分自身を否定されることに関しては結構メンタル弱いからなあ。おれがなれすぎたせいかもしれないけど。
「まあまあそんなことはいいじゃない。あなたたち。それより焼き肉よ。今日はやっきにく~。躍起になって肉も踊る~、やっきにく~」
 ホットプレートを出して、冷蔵庫からいろいろと食材をとりはじめる。
 おいおいおい。そんなのやれるテンションじゃねえぞ・・・・。
「れみちゃん、そんなに落ち込んでるとあなたの大好きな竹山の林あげないわよ」
「・・・・・・」
 無反応。あーあ、こりゃ陰鬱メンヘラモードだ。治すのに相当時間がかかるわ。
 誰にだって辛い経験はあり、それを乗り越えるのには時間がかかるかもしれないが玲美の場合は並大抵の比ではない。以前、彼女が大好きなチョコスナック菓子・竹林の林を断ったときは2週間近く頭痛と称した仮病で部屋から出てこなかった。
「おい母さん、玲美なんとかしろよ・・・知らねえぞ」
「それはお兄ちゃんの役目でしょ」
 そうだそうだ、と便乗する父。けれど母に諌められて流石におとなしくなった。
「・・・・・・おい」
 隣によって肩を揺すってみる。だいぶげんなりとしているが、まだ泣いてはいない。頭の中でいろいろと考えてから、やがて独り言のようにつぶやく。
「おれもな、しょげたことあったよ。正直いってさ最悪・・・だよな。俺らができた理由が授かり婚で、本意じゃなかったって。しかも親父はそれを平気でデリカシーのかけらもなしに言ってくるしよ・・・ほんとやになるのはわかる」
 細く呆れたような息をつく。玲美はさっきからずっと体勢は変わってないが、きっと聞いてくれているだろうと思い、構わず続ける。
「んでさ昔、聞いたことあるんだ。子供はどこからくるのって。親父なんて言ったと思う? ポストだよ、ポスト。あの郵便物入れから赤ちゃんは来るんだってさ。あほだよな、ほんと。でもバカ正直だったおれは信じてさ・・・すげー! 命のオアシスじゃん、って言ったんだよね。まああとで実際そんなのはないって知るんだけど。でもさ改めて考えたんだけど、命のオアシスがないってわけじゃなかったんだよ」
 ゆっくりと息をすうのと言葉をためるような素振りを数度繰り返して。
「だって、おれたちが命のオアシスじゃん。街で見かけるお腹を膨らませた妊婦を見る度に少しずつ思ったんだ。あそこに命が宿ってるんだって。おれたちが命のオアシスをうみだしてるんだって。親父はデリカシーなくてバカでほんとしょうもないことしか言わないけど・・・・・それを真に受けずに前向きに捉えらればいいんだよ。お前が何考えてるかしらねえけど、もしろくでもないこと考えてるなら、そんな後ろ向きな考えは捨てとけよ」
 ちょっと説教くさくなったけどまあいい。これで立ち直りも少しははやくなるだろう。辛気臭さが残り切らないようにテレビのプラグを差し込んで再びつける。ちょっとうるさいくらいのバラエティの声。でもそれがうちの家庭にはちょうどいい。
「いのちの・・・オアシス・・・」
「・・・ん」
 わずかに顔をテレビの方に向ける。 
「なんでそんなに兄貴は――」
 言おうとしてやめる。・・・・・・。
「まあ・・・なんというか・・・あれだな。このクセモノ集いの我家に生まれたのがちょっとはやい者として言うなら、慣れだ。どんな爆弾にもうろたえなきゃいい。あとは深く考えたらだめくらいだな」
 さっさと元気出して飯食うぞ、と思いをこめて背中を軽く叩こうとする。
「・・・・っふ」
 鼻笑いが聞こえたときにはもうすでに遅し。手首をがっちり玲美の両方の手で抑えられる。これは昔よくプロレス技でやられたやつだ。気付けば一瞬だけ天井が見えて・・・あとはよく覚えてない。
「いってぇえな!」
「へへっ。兄貴はまだあまいっつーの」
 昔の頃のような無邪気な笑顔をおれに向けてから、お母さんの手伝いに向かっていった。

 
 お
 し 
 ま い



 ちょっと展開がスキージャンプ台ばりに勢いつけすぎたな。